2013年8月13日火曜日

なぜ、私たちは向き合うのか。どこへ、私たちは向かおうとするのか ~13年目の夏~

2013年7月28日、約束の場所。
ロシア連邦ブリヤート共和国・バイカル湖畔のロッジ。
日本、韓国、中国、モンゴル、そしてロシア。北東アジア地域の5ヶ国62名のこどもたちとキャンプをサポートする50名のスタッフが各国から集った。
中国チームは1200㎞を越える列車の旅を経て。日本チームは思わぬアクシデントで1日遅れで。

昨年8月、モンゴルで開いた各国代表者会議で2013年のロシア開催を決定。
その後、Kids’AUロシアのルダ、ユリヤ、ナターシャたちが五里霧中、暗中模索の中、Kids’AUモンゴルの支援を受けながら諸準備を進め、見事に第13回Kids’Asian Union Camp in RUSSIAを実現させた。プログラム、食事、安全など、その心配りにロシアのスタッフたちの暖かな気持ちを感じた。9日間、現地の医師が寝食を共にしてくれたことは各国の引率責任者をどれほど安心させてくれただろうか。また、ロシア料理がこれほどおいしいものかと驚かされた。それは、決して豪華だという意味ではなく、郷土料理をベースに、12年間の経験から内容を吟味したメニューであった。
食べることは安全確保の第一であるから、本当にありがたかった。

フィールド、スタッフ、資金、招聘、協力者、安全、宿泊、飲食、プログラム、移動etc, 実に大変な作業をホスト国・ロシアが担った。そして、そのKids’AUロシアをKids’AU モンゴルのメンバーが協力にサポートしてくれた。

2001年からスタートしたKids’AU Campは日本、韓国、モンゴルの3ヶ国で開催してきたが、ロシアは4つ目の国。はじめての開催となった。
当初4年間は、日本に各国を招聘して実施してきたが、5年目の韓国開催を境に、日本・韓国・モンゴルの3ヶ国を舞台に開催されるようになった。
「いつかすべての国でKids’AU Campを開催したいね。」というのは、そのころから抱いていた私たち各国メンバーの共通の夢だった。今年、その夢が一歩前進したのだ。

「北東アジア地域」とは一般的に日本、韓国、北朝鮮、中国、モンゴル、ロシアの6ヶ国の主権国家を含む地域として認識されている。台湾やハワイを加える説もあるが、たいがいは、この6ヶ国をさしている。Kids’AU Campはこの6つの国のうち4つの国で開催されたことになる。
Kids’AU Campを始めた私自身、まるで人ごとのように驚いている。
残るは中国とD.P.R.Korea(北朝鮮)の2ヶ国。この2ヶ国で開催できれば北東アジアの主要国を一巡することになる。しかし、いくら民間レベルの活動といえども、国家の壁は高く、政治の淵は深い。気持ちはあっても手が届かないこともあるだろう。未来世代に夢を託すこともあるだろう。

私にとっては、この6ヶ国は「向こう三軒両隣」の御近所の国であり、いままでも、これからも、地球が壊れるほどの大変化がない限り、一緒に暮していく大事な「お隣さん」である。
しかし、夫婦や兄弟や親子や親戚がそうであるように、近ければ近いほど、良いところも悪いところも見えすぎて、関係が深いからこそ愛憎も深くなりがちである。
残念ながら、北東アジア地域の国際関係は良好ではない。各国の事情や関係国の思惑が複雑に絡み合いながら、緊張関係が続いている。

今後、国民国家の時代がどのように変化していくのか私にはわからない。しかし、はっきりわかっていることは、仲良くしたほうが楽しい、ということだ。
たとえ「壁」を取り払えずとも、できるだけ低くして交わり、違いを楽しみ、相互理解、相互承認、相互補完しながら今を生き、次代に希望を抱いていくことは、やろうと思えばできる。Kids’AU Campのように。

2001年から13年間、私たちは国境を越えて仲間であり続けている。そして、2020年までのシナリオを共有している。
6ヶ国のKids’AUメンバーたちは、絶望と憎悪とは真逆の地平に集っている。つまり、希望と和敬が私たち6ヶ国のメンバーをつなげているのだ。でなければ、Kids’AU Campが13年間も続いていることが説明できない。この事業は誰からの依頼でも、強制でもない。自分たちがやりたいから、大事だから取り組んでいる。そこには6ヶ国の仲間を貫く共通の「志」がたしかにあるのだ。

Kids’AUモンゴル代表のバットは、「僕は、Kids’AU Campを各国の仲間と一緒にやっていけることを自分の大切なプライドだと思っている。」 とむさしに語った。

7月30日午前11時。バイカル湖畔のロッジの食堂に5ヶ国のKids’AU代表らが集い、今回のロシアキャンプに関する諸問題の確認や検討、来年度以降の取り組みに関する協議が行われた。

2010年6月、下見を兼ねてバイカル湖に集った各国代表は、2020年までのキャンプ開催国を協議した。その際、2011年を日本、2012年をモンゴル、2013年をロシア、2014年を中国、2015年を日本
という案を共有したが、あらためて2014年についての開催国の検討が行われた。
写真はその時の会議の様子だ。日本、韓国、中国、ロシア、モンゴルの各国代表と幹部がそれぞれの意見を出し合った。一応、2014年は中国開催という案を共有しているが、実際に開催可能かどうか率直な話し合いがもたれた。

日本は自然学校、韓国は社会福祉法人、北朝鮮は朝鮮学校、モンゴルはJCI、ロシアは市立中学校というように各国のKids’AUはそれぞれ母体(ベース)をもっている。
しかし、中国は地方政府の公務員であるKids’AU中国代表のゴアがほとんど単独で活動しているのでホスト国として相当の苦労を覚悟しなければならない。

各国代表から率直な意見が出されたが、中でもロシア代表のルダは、今回、はじめてKids’AU Campの実施責任者として取り組んだ経験をもとに、「私たちも大変不安だったが、各国のみなさんのサポートをもらいながら、なんとか実現した。不安で大変だが、氷の海に飛び込む覚悟をもってチャレンジすれば必ずできる。頑張りましょう。」と激励の言葉をゴアへ送った。
Kids’AU日本代表のむさしは「無理することはない。時期を選ぶことも大事なことだ。」と発言した。モンゴル代表のバットは「重要なのは、ゴア自身がやりたいかどうかだ。ゴアがやりたいというなら、私は最大限サポートする。」と発言し、韓国代表の金さんも同様の意見であった。

そうした発言を聞いていたゴアは、しずかに立ち上がり、「来年は中国で開催します!組織をもたない自分にとって不安は大きいですが、組織作りもふくめ精一杯頑張りたい。氷の海に飛び込みます!みなさんのサポートをお願いします。」と決意表明した。
少し高揚していた面持ちのゴアは、各国メンバーからの敬意と協働を約束する拍手に微笑んだ。

こうして、2014年は中国・北京でKids’AU Campが開催されることが確定した。
中国開催が実現すれば、5つ目の国。北東アジア地域を一巡することになる。

2001年に「北東アジアの大地に100粒の平和の種をまこう!」というコンセプトを掲げて始まったKids’AU Campは、今回のロシアキャンプで642名のこどもたちが参加した。毎回50人程度の参加があれば2020年には1000名を超えることになる。

北東アジア地域に1000粒の平和の種が蒔かれたとき、時代はどのように変化しているのだろうか。今よりも国家間の緊張は高まっているのだろうか。
日本の平和主義は崩れているのだろうか?

未来はこどもたちのもの。私たち大人は、できうる限り、過去の失敗から学んだ智慧を伝えていかなければならないし、平和や希望を、具体的に示していかなくてはと思う。

たとえ国や民族、思想や信条、言語や習慣が違っても、ご飯を一緒においしく食べ、一緒に楽しく遊び、安心して一緒に寝ることができるんだという事実。
同じ人間としてまったく変わらないという事実。
国境を越えて手をつなぎ、未来のために一緒になって汗を流し、笑い合っていた大人たちがいるという事実が、子どもたちの心の中に平和や希望の具体像として残っていくことを私たちは願っているのだ。

                                              (代表むさし)